銀瓶(銀壺)について徹底解説!

銀瓶とは

銀瓶とは茶道具の一種で、銀で造られた湯沸しの事をいいます。貴金属を用いて金工技術の粋を集めて造られた銀瓶は、古くより権力者たちのステータスシンボルとして重用されてきました。また、銀はお湯の味を変えない為、銀瓶は煎茶には最適な道具とされています。

銀はあらゆる金属の中で最も光の反射率が高く、美しい輝きを持っています。年月を経ると空気中の硫黄分と反応して黒ずんできますが、これは「いぶし銀」と呼ばれ、この深みのある光沢を愛好する方も多く、あえて最初からいぶし銀に加工された商品もあります。

お手入れをする事で輝きを保つことも出来るので、美しい輝きを楽しむか、いぶし銀の渋い光沢を楽しむかは好みでお選び頂けます。

銀瓶の作り方は一枚の銀の板を木槌で叩いて形作っていく方法と、銀を溶かして作る鋳造の方法の2種類があります。

銀瓶加工の種類

銀瓶の装飾加工にも様々な種類があります。それぞれの特徴について説明させて頂きます。

みがき仕上げ(鏡面仕上げ)
表面を光が均一に反射するように研磨する技法で、文字通り鏡のような光沢があるのが特徴です。銀の持つ金属の中で最も光の反射率が高い性質を活かした加工です。

燻(いぶし)仕上げ
銀の持つ化学反応を利用した技法で、黒く深みのある光沢が特徴です。いわゆる「いぶし銀」と呼ばれる加工です。

霰打
霰打ちとは、霰(あられ)と呼ばれる突起を全面に打ち出す技法です。一粒一粒、内側から叩き出す大変手の込んだ技法で、粒模様を整然とさせるには熟練の技が必要となります。

鎚目打
文字通り表面に金鎚を連続的に打ちつける事によって模様を出す技法で、凹凸により豊かな表情を生み出します。

ゴザ目打
鎚目打と同じく金鎚を打ちつける事によって、ござの筋目のような模様を表現する技法です。

彫金
表面に鏨(たがね)で模様や図柄、文字等を彫り込む技法で、金鍍金を施した物もあります。

その他
その他、アンティークな色調の古美色仕上げ等、銀の加工には様々な種類があります。

銀の種類

銀の純度は1000分率で表されます。日本では現在、主に1000、950、925、900、800、といったものが使用されています。銀は純度が高くなるほど柔らかく、強度が弱くなる性質を持つ為、純度が高すぎる銀は実際に使用する製品等の加工には向いていません。

1000(ピュアシルバー)
柔らかすぎる為、そのままで使用される事はあまりありません。

950(ブルタニアシルバー)
シルバーアクセサリー等に使われます。スターリングシルバーと比べると銀の含有率が少し高いですが見た目は殆ど変わらず、加工方法によって使い分けられる事が多いです。地金を直接加工する場合はブルタニアシルバー、鋳造加工する場合はスターリングシルバーというのが一般的です。

925(スターリングシルバー)
シルバーアクセサリーや管楽器などに使用される最も馴染みの深い銀素材です。スターリングには「価値のある」「本物」などの意味があり、イギリスの通貨が、スターリングポンドと呼ばれた事が由来とされています。イギリスでは品質の高い銀として認められており、「純銀」として定められているようです。

900(コインシルバー)
コインシルバーはかつて銀貨の製造に使用され、それを加工したインディアンジュエリー等もよく作られました。銀の純度はスターリングシルバーより低いですが、貴重な古銀貨が使われている為、スターリングシルバーより価格が高くなる場合もあるようです。

800(ジャーマンシルバー)
他の銀に比べて硬度が高い事から、ナイフ、フォーク、スプーン等、硬さを求められる製品に使用されることが多いです。
※ジャーマンシルバーという名称は、銅、亜鉛、ニッケルで構成された合金である洋白(洋銀、ニッケルシルバー)にも使われるので注意が必要です。名称は同じでもこちらは銀を含まない別素材です。

日本では純銀は混ざりのないものとの認識がある為、その視点でいえば、ピュアシルバー以外は厳密には純銀とは言えませんが、純銀に関しての表示に明確なガイドラインが設けられていない為、純銀である規定はそれぞれの業界の慣例によるようです。

これらの事から、スターリングシルバー以上であれば、純銀と言っても差し支えないかと思います。

銀瓶の使用方法及び注意事項

初めて使用する際は、すすぎ洗いを数回行ってください。その際にタワシやスポンジ等で擦ったりしないでください。洗剤等も必要ありません。銀は柔らかい金属ですので過度の洗浄は傷の原因になってしまいます。

お湯を沸かす際には、8分目程度を目安に水を入れてください。目一杯に入れてしまうとお湯が沸いた際に吹きこぼれる恐れがあり危険です。

なるべく直火を避け、強火でのご使用はお控えください。また、空炊きは破損や変形の原因になりますので厳禁です。

お湯が沸いた際には大変熱くなりますので、直接手を触れないようにし、蓋を持つ際などには、布巾などをあててご使用ください。※基本的に持ち手には熱防止の為、籐(トウ)と呼ばれる物が巻いてありますが稀に籐が巻かれていない銀瓶もありますのでご注意ください。

籐(トウ)とは

銀瓶の持ち手にも巻かれている籐(トウ)は、ヤシ科のつる性植物でラタンともいいます。籐は東南アジアを中心に熱帯雨林地域のジャングルに自生する植物で、節があり、棘を持った表皮に包まれています。籐の繊維は植物中で最長かつ最強ともいわれており、丈夫で軽く、柔軟性もある事から、籠を編むのに使用されたり、家具の材料として使用されたりと、様々な用途に幅広く使用されています。

銀瓶の熱源

電熱器(電気コンロ)
電熱器とは、内蔵されている電熱線を加熱する方式の調理器で、一般的に熱源の部分が渦巻きの形をしています。銀瓶へのダメージが少なく、また、安価で手に入るので個人的には1番お勧めの熱源です。

茶道でもよく使用されており、炭を模した形状の電熱器(電気炭)といった物もあります。この事からもいかに電熱器が銀瓶の熱源として適しているかが伺えます。また、IH器具では使用できないものにも幅広く使用できるといった利点もあります。

デメリットとしては、温まるまで時間がかかるという事と、火力が弱いといった点があります。銀瓶でお湯を沸かす際には全く問題ありませんが、中華料理など高火力を要する調理の使用には向いていません。

ガスコンロ
ガスコンロでも使用する事が出来ますが、使用の際は強火を避け中火以下、(出来れば弱火)でご使用ください。強火で使用すると、変色や破損の原因になってしまう恐れがあります。

IH調理機
銀で出来た製品はIHにはご使用になれません。※最近はオールメタル対応のIH器具がありますので、未確認ですがそちらでしたらご使用になれるかもしれません。

銀製品のお手入れ並びに保管方法

銀の日常のお手入れ方法は、使用後に柔らかい布でカラ拭きし、汚れなどをとる程度で十分ですが、日が経つにつれて空気中の硫黄分と反応して黒ずんできたり細かい傷が付いたりするので、そうなるとしっかりとしたお手入れが必要です。

これは銀の純度、品質にかかわらず起こる化学反応で銀の持つ特性ですので、黒くなったからといって心配する必要はありません。お手入れをしてやれば当初の輝きを取り戻します。

※黒ずんだ状態は「いぶし銀」と呼ばれ、この深みのある光沢を愛好する方も多です。「いぶし銀」を楽しまれる場合は磨きすぎるとピカピカになってしまいますのでご注意ください。

お手入れ方法は多種ありますので、状態に応じたお手入れ方法をお試しください。

黒ずんでしまった場合(軽度~中度)

重曹を使ったお手入れ方法
軽く変色した場合は、ぬるま湯に浸した柔らかい布に重曹をつけて、軽く磨き、水拭きで拭き取った後、乾いた柔らかい布で拭いてください。

黒ずんでしまった場合(中度~重度)

シルバー磨きクロスを使ったお手入れ方法
シルバー磨きクロスは、柔らかいフェルト生地に微粒子の研磨剤が含まれた銀製品専用の磨き布です。銀の表面をこの布で磨くだけで簡単に黒ずみを取ることができ、元のピカピカの状態に戻します。商品によっては、変色防止剤や艶出剤を含ませた物もあります。研磨力は弱いので傷などをとることはできません。

超微粒子とはいえ研磨剤なので、厳密にいえば磨くというより表面を極薄く削り取っている状態になりますので、つや消し加工やいぶし加工、メッキ加工、彫り紋様等が施された物の場合は、強く磨きすぎると加工が剥がれてしまったり薄くなったりしてしまいますので十分ご注意ください。

また、銀専用以外のもので磨くと微細な傷が付き、綺麗に艶が出ない場合もあるので必ず銀専用の商品をお使いください。

シルバーポリッシュを使ったお手入れ方法
変色した硫化被膜を除去するだけでなく、光沢を出す事も出来るので、銀の美しい輝きを取り戻す事が出来ます。硫化防止剤が配合されているものを使用すれば、長期間黒ずみを防止する効果もあります。使用方法は簡単で、ポリッシュを柔らかい布につけて馴染ませたら液を伸ばすようにしながら丁寧に磨き、十分に磨いた後、ポリッシュのついてない部分の布で拭き上げてください。布では磨きにくい細かい部分等には綿棒が便利です。

※埃や汚れのついた布を使用すると傷の原因になってしまう事があるので必ずきれいな布をご使用ください。また、目の粗い布やティッシュ等のご使用も傷の原因となりますのでご注意ください。

※ポリッシュは少量ずつお使いください。最初からつけすぎないのが綺麗に磨くコツです。

※シルバー磨きクロス同様、研磨剤が入っていますので、つや消し加工やいぶし加工、メッキ加工、彫り紋様等が施された物に使用の際は、強く磨きすぎると加工が剥がれてしまったり薄くなったりしてしまいますので十分ご注意ください。

※緊急の場合は、歯磨き粉でも代用が可能ですが、粒等が入ったものは傷がつく可能性がありますので使用を避けてください。極力銀専用の研磨剤を使用することをお勧めします。

液体シルバークリーナーを使ったお手入れ方法
液体シルバークリーナーは、液に浸けるだけで変色や汚れを簡単に落としてくれる専用液です。使い方は簡単で、黒く変色した銀製品を数秒程度、液に浸けるだけで銀本来の美しい輝きを取り戻す事ができます。容器に入らない大きな製品の場合は布等に液を含ませて使用する事もできます。シルバー磨きクロスなどで磨くとさらに効果的です。

※浸ける時間が長すぎると、銀が真っ白になりすぎて艶が失われてしまう事がありますので、説明書をよく確認してご使用ください。

※つや消し加工やいぶし加工、メッキ加工等が施された商品にはお勧め出来ません。

特殊な変色の場合
銀の変色のほとんどは空気中の硫黄分との化学反応(硫化)が原因なので、上記の方法などでお手入れしてやれば解消できますが、塩素が原因の変色は簡単には取る事が出来ません。通常の使用ではまず起こらない変色ではありますが、家庭用の漂白剤等には大抵塩素が使用されていますので、それらが付いてしまったりすると変色を起こしてしまいます。

もし塩素が原因の変色が起こってしまった場合は、無理に取ろうとせず、専門業者等に修理を依頼する事をお勧めします。

細かい傷が付いてしまった場合

研磨剤(コンパウンド)を使ったお手入れ方法
銀は柔らかい金属の為、物にぶつけたり、擦れたりすると表面に傷が付いてしまう場合があります。中には肉眼では見えない位、小さな傷の場合もあり、銀磨きやシルバークリーナー等で磨いても輝きが戻らない事があるのは、この小さな傷が原因の場合が多いです。

銀磨き等で取れないような小さな傷をとるには研磨剤を使用します。使用方法は柔らかい布やセーム革に少量とり出し磨きます。ただし、間違ったお手入れ方法を行ってしまうと逆に傷が付いたり光沢が鈍くなり、くすんでしまう場合がありますので、心配な場合は専門業者等に任せる事をお勧めします。

銀製品の保管方法
銀食器が黒ずむ原因は、空気中の硫黄分で化学反応を起こしてしまうからです。なので、黒ずみが発生しないようにするには、空気と触れないようにすることが最大のポイントです。

しばらく使用しないといったような際には極力空気に触れないよう保管してください。1番手軽なのが布等で包んで、フリーザーバッグなど密閉性の高い袋に入れて保管する方法です。その際になるべく袋の中の空気を抜くようにするのがコツです。

ただし、真空になっているわけではないので若干の硫化は起こるかと思います。気になる場合は、シルバー変色防止布やシートといったものがありますので、一緒に、同封しておくと、さらに高い効果が期待出来ます。また、シルバー変色防止剤を使用するのも有効です。

銀瓶の選び方

一言に銀瓶といっても、製作者、製造法、デザイン、装飾、材質、産地等、様々な要因によって価格は異なり、当たり前の事ではありますが、基本的には価格が高いほど高級な商品といえます。

安い物は日本国外で作られたもの等があり、材質的にもあまり良い物が使われていない事も多いです。純度の高い銀を使用し、まともな職人が造った銀瓶であれば、どうしても高価になります。逆に安すぎる銀瓶は、何かしら問題があるのではないか疑ってみたほうがいいかもしれません。

中には銀瓶と書かれていても真鍮等に銀メッキを施した、素材ではなく色としての意味合いで銀と表示されている物もあり、混同しがちなので注意が必要です。見極め方としては「純銀製」と説明書きがされているか、「純銀」などの刻印があるかどうかで確認出来ます。また、純銀製の銀瓶に比べて価格があきらかに安いので、そういった事も目安になるかと思います。

銀瓶をご購入の際は、銀の使用量(重量)、銀の純度、造形、装飾性を考慮の上、お選び頂ければよろしいかと思います。

銀瓶を選ぶ際の目安

重量
単純に重い(銀の使用量が多い)ほど高価になります。

材質(銀の純度)
銀には様々な種類があり、それぞれ特長があります。銀瓶の場合は高価な銀を使用した高級嗜好品ですので、純銀と刻印の入ったものをお勧めします。

デザイン、装飾
凝ったデザインや彫金等の装飾が施されたものは、それにかかる労力、技術力、材料費等によって価格が高くなります。

銀瓶の修理

銀製品は、変色したり、多少キズがついたりしてしまっても、お手入れをする事でもとの美しさを取り戻すことができます。

ただし、間違ったお手入れをしてしまうと、かえって症状が悪化してしまう恐れがあるので注意が必要です。お手入れをしても改善がみられない、自分でお手入れをするのが自信がないといった場合は、修理を依頼したほうが良いかもしれません。

黒ずみ・キズ・へこみの修理
キズ取り・磨き直し
バフをかける事により、小さなキズやくすみ、汚れ等を取り除き、銀瓶をピカピカの状態に戻します。

※バフとは
バフ(buff)とは英語で磨くという意味で、布や綿などで作られた円盤状の物を機械で回転させ対象物に当てることで表面を研磨します。

へこみ直し
へこんだ箇所を反対側から叩き出した後、表面を整え研磨する事により、元の状態へ戻します。

溶接が必要な修理
取っ手などが取れてしまった場合には、半田付や蝋付等で取れた部分を取り付けます。

籐の巻き直し修理
籐は丈夫に出来ており、通常の使用では破損する事はあまりありませんが、稀に何かの拍子で外れてしまったり切れたりする事があります。そういった場合は、新たに籐を巻き直す事で修理が可能です。

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