香炉とは
香炉とは中に香料を入れて加熱し、香りを発生させる器です。主に金属や陶器などで作られており、元々は仏具として使用されてきましたが、現在では形状の美しさから香道や茶道、インテリアなどとして幅広く用いられるようになりました。
香炉の歴史
香炉が最初に使われたのは仏教起源の地であるインドといわれています。スパイス文化が発達したインドでは、悪臭を防ぐ為に様々な香料をブレンドしてお香を作り、それらを焚いて体に纏う風習があったようです。これが仏教に取り入れられ、仏教の伝来とともに日本に渡ってきました。日本書紀によると、飛鳥時代に現在の淡路島に流れ着いた大きな流木を島民が薪にして火にくべたところ、何ともいえない高貴な香りが立ち込め、驚いて朝廷に献上したところ、聖徳太子は「これこそ沈(香木・沈香)というものなり」と答え、この香木で仏像をつくり寺に安置したといわれています。平安時代には香料を調合して、香りの優劣を競う「薫物合せ」が行われるようになり、安土桃山時代から江戸時代にかけては権力者の教養として茶道、香道に発展し、庶民にも浸透していく事となります。
香炉の種類
香炉には仏壇用や焼香用、香道用などのたくさんの種類があり、それぞれの特長があります。
仏具としての香炉
仏具としての香炉は一般的に仏前で祈りを捧げる際に線香を立てる為に使用する物で、供養には欠かせない重要なものです。正式な仏具の一式は、香炉と蝋燭立て(燭台)、花立て(花瓶)を一対ずつ祀る「五具足」と呼ばれる形式ですが、香炉と蝋燭立て、花立ての3セットに省略された「三具足」の形式が一般的となっており、仏壇の大きさや菩提寺の考え方、宗派、地域の習慣などによって変わってきます。 主として仏壇用香炉と焼香用香炉があります。
仏壇用香炉
仏壇用の香炉には様々な種類がありますが、前香炉と土香炉が一般的です。
前香炉
仏具として一番一般的な香炉が前香炉です。口が広く作られており、線香を立てる際に使用されます。主に浄土真宗以外の宗派で使われています。マッチ消しや線香立て、経本、ロウソク消しなどと一緒に経机の上に置いて使用します。
土香炉(玉香炉、透かし香炉)
土香炉は主に浄土真宗で使われる香炉で、青磁の香炉が一般的です。唐草模様の透しが入った物もあり、デザインの美しさが特長的です。一括りに土香炉とされがちですが、厳密には浄土真宗本願寺派では玉香炉、真宗大谷派では透かし香炉と呼ばれています。浄土真宗では、線香を立てずに2~3回折って土香炉に寝かせて焚くのも特長です。
長香炉
長香炉は細長い四角の形をしており、線香をそのまま縦に寝かせて使うタイプの香炉です。伝統的な大きな仏壇に使われる事が多く、黒檀調や紫檀調の高級感のあるデザインが特徴的ですが、実際に使われる事はあまりありません。
焼香用香炉
焼香用の香炉は焼香炉とも呼ばれ、焼香がしやすいように作られています。香炉灰とお香を入れる容器がセットになっており、右側にお香、左側に香炉灰を置いて使用するのが一般的です。
焼香用角香炉
焼香用香炉で一般的な物が焼香用角香炉です。長四角の形をしており、香炉灰の容器に蓋が付いている物が多いです。
火舎香炉(かしゃこうろ)
火舎香炉は主に浄土真宗で焼香用に使われる香炉です。真鍮で出来ており、蓋に煙を出す穴が付いているのが特徴的な三脚の香炉です。
手提げ香炉
墓地で法要を行う際は、焼香用角香炉に持ち手が付いて持ち運びが出来る物を使用します。
廻し香炉
廻し香炉とは、法要に香炉を廻して焼香をする際に使用する香炉の事をいいます。お盆の上に載せた焼香用香炉を参列者に一人ずつ廻して焼香をします。一般的には廻しやすいように小型の物を使います。
電気香炉
電気香炉は火を使わず電気でお香を焚く香炉です。火を使用しないので、火事の心配がいりません。前香炉として使用する他、空薫や聞香用の香炉としても使う事が出来ます。
香道用としての香炉
香道に使用する香炉は聞香炉(ききごうろ)と呼ばれ、手にとって香を楽しむ為、蓋のない小型のサイズの物を使用します。
香道(こうどう)とは
香道とは茶道や華道と並ぶ日本三大芸道の一つで、天然香木の香りを鑑賞する芸道の事をいいます。平安時代に始まり、室町時代に香道の礎が築かれました。香道においては香りを嗅ぐという表現は不粋とされており、香りを聞くと表現します。聞香と組香の二種があり、左手に乗せた聞香炉に右手を被せるようにして香りを楽しみます。
聞香(もんこう)
香木の香りを楽しむ作法を聞香と言います。文字通り、香りを聞くという意味合いで、ただ香りを嗅ぐのではなく、香りに心を傾けて聞くようにじっくりと味わいます。香炉を手に持ち顔に近づけて香りを楽しむので、香木の香りを深く味わうには一番適した方法です。
組香(くみこう)
組香とは複数の香木を和歌や物語の主題によって組み、その香りを聞き当てる遊戯の事をいいます。
インテリアとしての香炉
香炉は仏具、香道用としてだけでなくインテリアとしても使用されます。主に和のイメージがある香炉ですが、洗練されたデザインの香炉は和室だけではなく洋風の部屋にも合わせる事ができ、アロマ等のリラックス空間としても使用できます。また、茶道や華道と合わせて飾るのもお勧めです。
香炉の使い方
まずは線香を立てる為に香炉に香炉灰を入れます。灰を入れる事によって線香が安定し、燃えカスが散ってしまったりするのも防ぐ事が出来ます。一般的によく使用されるのは、白い色をした珪藻土灰と呼ばれるものです。香炉灰を香炉の8分目ぐらいまで入れたら線香を立てて火をつけます。香炉は線香以外にもコーン型やコイル型のお香や、香木等にも使用する事が出来ます。
線香の燃えカスは香炉灰の中に落ちるので、気にせずに使い続ける事が出来ますが、長く使っていると燃えカスが溜まって見た目が悪くなってきます。また、燃え残りがあると、線香を立てづらくなったり、灰が飛び散りやすくなります。その為、定期的に香炉灰のお手入れをする事をお勧めします。お手入れの方法としては、専用の網を使って灰の中から線香の燃えカスを取り除き、香炉灰を綺麗にならします。お手入れしても綺麗にならなかったり、灰の塊が出来るようなら新しい灰に交換しましょう。少し高価になりますが、藁や海藻といった素材を使った灰は、線香が最後まで燃え尽きるので、燃えカスの量を減らす事が出来ます。
また、最近は洗って繰り返し使える香炉石も注目されています。灰が舞ってしまったり、誤って香炉をひっくり返した際の掃除が大変だったりする事がなく、手入れも簡単で、見た目も美しい事からニーズが高まってきており、モダンな仏壇などに合わせて香炉石を使う方も増えてきているようです。
香炉に入れるお香の種類
お香にはスティック型・コーン型・コイル型・香木など様々な種類があります。
スティック型のお香(線香)
代表的なお香で細長い形で燃焼時間が長いのが特長です。宗派や風習によって焚き方が異なりますが、香炉の中に3方向に1本ずつ立てるのが一般的です。折って使用したり、寝かせて使用することも出来ます。様々な線香があり、仏壇用としてだけではなくアロマ等としても使われます。
長い線香
座禅香とも呼ばれているとても長い線香です。禅堂で用いる物には70cm以上の長さの物もあり、大型の香炉に立てて使われます。法要の導師用として使用されるのが一般的です。
短い線香
10センチ未満の短いものもあり、仏事用というよりは香りを楽しむ為に使用する事から、花やフルーツ、スパイスなど、様々な香りのものがあります。
コーン型のお香
円錐形のかわいい形をしており、灰が下に落ちずに円錐状の形のまま残るので灰が散らばらず使いやすい事から人気のお香です。その形状や香りが強い特長から、香りを楽しむのに向いたお香です。
コイル型のお香
蚊取り線香のような形をした渦巻き状のお香です。長時間燃焼するのが特長で、ブルーやピンクといった鮮やかなカラーをした物もある事から、インテリア感覚でも使用できます。
香木
香木とは文字通り良い香りを放つ木の事で、一般的には沈香(じんこう)、伽羅(きゃら)、白檀(びゃくだん)の事をいいます。沈香は熱する事で香りを発し、鎮静効果があるとされています。沈香の中でも最上級の物は伽羅と呼ばれ、大変高価ですが複雑な香りを放つ為、香道などで使用されます。白檀は常温で香りを放つため、仏像などの彫刻や扇子などの材料として幅広く利用されています。また、焼香など調合香の素材としても使用されます。
焼香
香木などの天然香料を細かく刻んで調合したお香で、つまんで香炉にパラパラと落として使用します。
香立とは
香立とはお香を差す土台の事で、通常、灰を受ける皿(香皿)とセットで使用します。様々な形の物があり、香立と皿が一体化した物もあります。香炉灰など他に必要な物がなく、手軽に使えるのが特徴ですが、灰が散らばる事や線香以外のお香を使用する際には、それぞれ別途、専用の香立が必要となるなど香炉に比べてデメリットもあります。
香合とは
香合とはお香を入れる蓋付きの小さな器の事を言い、仏具や茶道具として使用されます。植物や動茶道物などをモチーフとした様々な形状の物があり、そのデザイン性から、インテリア等としても使用される事もあります。
香炉の選び方
香炉を選ぶ際には、まずは大きさを考えます。ご家庭の仏壇の大きさに合わせてバランスの取れた大きさの香炉を選んでください。廻し焼香などの手持ちで使用する香炉は、なるべくコンパクトなものを選ぶといいでしょう。また、香炉は宗派や地域ごとの風習によって使われる物や使用方法が異なりますので注意が必要です。
香炉の価格は安いものでは数百円から、高級な物では数十万する物まで、非常に価格の幅が大きいです。使用目的や予算に合わせてお選びください。